核兵器禁止条約に至る道 ――世界法廷プロジェクト④ 市民によるロビー活動――
核兵器禁止条約に至る道
――世界法廷プロジェクト④ 市民によるロビー活動――
以下、『数学教室』連載”The Better Angels”2015年4月号から転載
国際的なレベルでのロビー活動と聞くと、かなり高級なことをしているような感じを受けますが、ロビー活動はもっと日常的な存在です。国際的な活動だけでなく、国内でも、それも国会だけではなく地方議会等でも、多くの人が毎日のようにロビー活動をしています。ロビー活動の主体、つまり誰がこの活動をするのかというと、個人、企業、業界、NGO、圧力団体等々、ほとんどの人が何らかの形で、どこかでロビー活動をしているとさえ言えそうです。
ロビー活動をもう少し幅広く捉えると、地方自治体、国さえもこうした活動をしています。地方自治体と国との関係では「陳情」と言った方が分り易いかもしれませんし、力関係の違いが大きかった時代背景の下に行われた「直訴」も広い意味での「ロビー活動」だったと言って良いのではないでしょうか。
直訴する田中正造--野州日報から
「陳情」をするのが地方自治体だけではないことは言うまでもないのですが、「清々しい」といったイメージと結び付かないのは、これが上下関係を前提にした言葉で、権力を持つ者に対して、下々が実情を陳べ善処を要請することを指しているからです。もっとも近年では、官僚社会も上下関係を余りにもあからさまに表現している言葉であることに気付いて、「提案」とか「パブリックコメント」といった表現を使ったりしています。
長い間の因習として私たちの頭の中に、「陳情」と切っても切り離せない存在としてインプットされているのが賄賂です。公務員に便宜を図って貰うために金品等を贈る行為ですが、「贈収賄」「汚職」「疑獄」といった文字がマスコミで報道される頻度の高いことから、陳情そのもの、政治家や官僚に働きかけること自体に問題があるかのような雰囲気も作り出されてしまいました。
しかし、「陳情」の本来の目的である政策面での「提案」、それ以前の問題として、主権者である市民の主張や知見を立法・行政・司法のあらゆるレベルに反映させることは、健全な民主主義を創るためには必要不可欠ですし、それこそ、民主主義そのものだと言っても良いくらいの重みがあるのではないでしょうか。こうした本来の、民主主義の働きの一環としての活動を表す言葉として、当面「ロビー活動」という言葉を使いたいと思います。
過去の、汚れた面が目に付いたロビー活動とは袂を分かって、あるべき姿のロビー活動を展開し、世界規模での民主主義を手作りで実現し始めたのが、新しい世代の、環境や人権、福祉、平和等の世界的な活動を行って来たNGOです。献金をしたり、裏取引によって自分たちの言い分を通すという旧来のやり方ではなく、客観的なデータを元に、論理的・合理的な筋道を辿って結論に至るプロセスを、ある時は極めて知的に、またある時は情に訴えて、市民レベルでの支持を増やしつつ、民主的な政治に理解のある官僚や政治家たちを仲間に加え、その結果、多くの分野で成果を挙げてきました。
最近の良く知られた例では、対人地雷禁止条約締結のために大きな力を発揮したICBL(International Campaign to Ban Landmines――地雷禁止国際キャンペーン)があります。ダイアナ妃が応援したことでも有名ですが、彼女の果した役割は、彼女なりの「ロビー活動」だと言えるのではないかと思います。そして数回にわたって取り上げてきたWCPは、ICBLの先駆けとして、同じように効果的かつ大きな足跡を残しました。
対人地雷埋設地域でのダイアナ妃
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