石川教授の講演 ② 9条論の構造 ――「生活」の4層構造を元に考える――
石川教授の講演 ② 9条論の構造
――「生活」の4層構造を元に考える――
7月22日、東京大学法学部の石川健治教授による四部構成の講演中、今回は第三部の「9条論の構造」を報告します。念のために、4部を掲げておきます。
⓪ 導入 ①憲法論の構造 ②9条論の構造 ③今日的課題
第9条は厄介な条文だ。憲法の第2章には、9条という一つの条文しかない。軍隊を持つ国では、軍隊についての多くの条文があるのだが、それがない。構造的理解が必要な所以でもあるし、9条に触ると憲法の全構造が崩れるという特徴とも関っている。実は憲法学としても扱い兼ねている。
日本の人文科学の特徴の一つは、巨人の肩に乗っての議論ができることにある。欧米の知見を基に、経験と研究を積み重ねて議論する。でも9条にはそれができない。特別な存在である9条の議論の出発点として、特殊性のない普通の憲法の構造から見て行きたい。
私たちが生きて生活をすることを階層的に見た場合、まず「個人生活」がある。その上には「社会生活」があり、それをまとめる形で「国家生活」がある。政治の場で「個人」が取り上げられたことは文明の成果だと考えて良い。そして、19世紀には「社会」が考察の対象になった。「国家」で問題にされるのは統治システムだが、地方自治もこの中に含めている。そして世界的な比較をした場合、かなりの共通点があることも事実だ。
20世紀になって、その上に「国際生活」が現れるが、あまり歴史がないので、国際憲法にまでは至っていない。国家と国際の中間的存在としてはEUがある。国際憲法の規定だと捉えても良いものは、今のところ国内憲法に表現されている。しかも、どの国でもそれは一方的に書かれている。例えば、ドイツでの、EU誕生の暁にはそれに主権を譲るといったような形の規定だ。また、不戦条項を憲法に入れている国もあるので、その点では日本だけが孤立しているのではない。長い目で見ると、このような形の条項が集まって国際憲法になるのかもしれない。
四つの階層を視覚的に縦に並べておきます。
国際生活
国家生活
社会生活
個人生活
しかし、9条については先例がないので、これからが仕事だ。出発点として、国家生活、社会生活、個人生活とどう関わるのかを考える必要がある。これは今まで行われてこなかった。
9条は個人生活にも大きな影響を持つ。それは風通しの良さや日常レベルでの空気感という言葉で表せば良いのかもしれない。
終戦後、GHQは日本政府に対して「自由の指令」を出し、政治犯の釈放等を行った。これは、批判の自由を保障する指令だった。東久邇宮内閣はこれに対応できず、総辞職した。次に、GHQは「神道指令」を出し、国家神道や神社神道を禁止した。さらに天皇の人間宣言が行われ、一連の改革の形が明らかになった。
「国体護持」と「一億総懺悔」を掲げたが、54日で総辞職した東久邇宮内閣
「自由の指令」は憲法21条に盛り込まれ、「神道指令」は20条、そして人間宣言は第一章という形で、憲法に反映されている。これらはすべて軍国主義の排除を目的としており、それに止めを刺したのが、9条だ。そのことで「国家生活」が非軍事化された。それが、13条の意味だ。「個人生活」が尊重されるという条項で、戦前は否定されていた「個人生活」が保障されたのだ。
次回は③今日的課題です。
[お願い]
文章の下にある《広島ブログ》というバナーを一日一度クリックして下さい。
« 石川教授の講演 ①憲法論の構造 ――人類の英知の蓄積―― | トップページ | 7月のブルーベリー農園 »
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 「無責任」の論理構造 (2) ――総理大臣も、主権者たる私たちの「使用人」―― (2020.06.11)
- 『テニアン』の著者・吉永直登さんにお会いしました ――熱い思いを聞かせて頂きました―― (2019.07.15)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (3) ――何故「数学書」として読みたいと思ったのか―― (2019.07.12)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (2) ――前口上も楽しさ一杯です―― (2019.07.11)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 ――いよいよ発売です―― (2019.07.10)
「言葉」カテゴリの記事
- 「無責任」の論理構造 (2) ――総理大臣も、主権者たる私たちの「使用人」―― (2020.06.11)
- 日本のテレビは「いじめ」を助長している ――みんなで声を上げましょう―― (2019.07.19)
- 「いじめ」をなくそう (3) ――テレビ番組の役割―― (2019.07.18)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (3) ――何故「数学書」として読みたいと思ったのか―― (2019.07.12)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (2) ――前口上も楽しさ一杯です―― (2019.07.11)
「平和」カテゴリの記事
- 『テニアン』の著者・吉永直登さんにお会いしました ――熱い思いを聞かせて頂きました―― (2019.07.15)
- 扇ひろ子さんのコンサート・二葉あき子さんの歌碑(2019.07.06)
- 「ファクトチェック」と「論理チェック」(2019.07.04)
- 『ファクトチェック最前線』を読んで「ファクトチェッカー」になろう(2019.07.03)
- あけび書房から労作『テニアン』が発売されます(2019.07.02)
「歴史」カテゴリの記事
- 1964年東京オリンピック ――同じお題で書きましょう―― (2019.07.20)
- 『テニアン』の著者・吉永直登さんにお会いしました ――熱い思いを聞かせて頂きました―― (2019.07.15)
- 扇ひろ子さんのコンサート・二葉あき子さんの歌碑(2019.07.06)
- 「論理チェック」と公務員の知的誠実さ(2019.07.05)
- 「ファクトチェック」と「論理チェック」(2019.07.04)
「憲法」カテゴリの記事
- 「無責任」の論理構造 (2) ――総理大臣も、主権者たる私たちの「使用人」―― (2020.06.11)
- 7月22日に、「数学月間」の懇話会で話をします ――関東地方の皆さん是非お出で下さい―― (2019.07.16)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (3) ――何故「数学書」として読みたいと思ったのか―― (2019.07.12)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (2) ――前口上も楽しさ一杯です―― (2019.07.11)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 ――いよいよ発売です―― (2019.07.10)
コメント