大統領の弾劾(2) ――トランプ大統領は三人目になるのか――
大統領の弾劾(2)
――トランプ大統領は三人目になるのか――
トランプ大統領が弾劾される可能性について考えてきましたが、先ずはアメリカの弾劾制度のお浚いです。大統領の弾劾はアメリカ憲法24条に定められています。
合衆国憲法第2条第4節
大統領、副大統領及び合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪又はその他の重罪及び軽罪につき弾劾され、かつ有罪の判決を受けた場合は、その職を免ぜられる。
この手続きを発議するのは連邦の下院です。大統領の訴追は多数決で決められます。しかも、対象となる罪は大統領就任後の期間に限られていませんし、さらに特定の罪を犯した廉で有罪になっていない場合でも訴追される可能性はあります。
下院の訴追に続いて上院が弾劾裁判所として機能し、裁判が行われます。その際、大統領が弾劾された場合には最高裁判所の長官が弾劾裁判の指揮を執ります。ここで、3分の2の議決があると罷免されるのですが、罰則はありません。
とは言え、大統領を辞任した後では、大統領に与えられていた免責特権がなくなりますので、その時点で時効を迎えていない犯罪について罪を問われる可能性は残っています。
これまでの大統領で「弾劾」を受けたのは2人だけです。第17代のアンドリュー・ジョンソン大統領と第42代のビル・クリントン大統領です。前者は南北戦争後の国家再建についての南北の利害関係が元になっています。後者はセックス・スキャンダルが原因ですが、二人とも裁判の結果、罷免は免れています。
アンドリュー・ジョンソン大統領
米国会図書館蔵 Image by Mathew Brady, Retouched by Mmxx
ビル・クリントン大統領
By Bob McNeely, The White House[1] -
http://www.dodmedia.osd.mil/DVIC_View/Still_Details.cfm?SDAN=DDSC9304622&JPGPath=/Assets/Still/1993/DoD/DD-SC-93-04622.JPG,
Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3164287
もしトランプ大統領が弾劾された場合、前の二人とは違って実際に罷免される可能性が大きいようにも思われます。それは、彼の罪状がこれまでの二人以上に広範かつ重いように見えるからです。
先ずは取り沙汰されているトランプ大統領や側近とロシアとの関係があります。今後の取り調べ次第でどうなるか分りませんが、最悪の場合、「国家反逆罪」にも問われ兼ねない性質のものです。また、就任後100日までに、134件の訴訟が起こされていることも重要です。この中には憲法違反の訴えも混じっていますが、それ以前のクリントン、ブッシュ、オバマの3大統領が訴えられた件数を合計したものの3倍以上の数字です。
また、大統領就任前、ビジネスマンとしても常識的な範囲を超える多くの係争事案を抱えていましたし、未だに解決していないものもあります。
さらに、「人道に対する罪」違反を問う人もいます。元々人道に対する罪とは、「国家もしくは集団によって一般の国民に対してなされた謀殺、絶滅を目的とした大量殺人、奴隷化、追放その他の非人道的行為」ですが、その後、拉致も含む強制失踪やアパルトヘイト、性的奴隷や強制妊娠、強制断種も加えられ、ハーグの国際刑事裁判所が担当しています。
この「人道に対する罪」の中に、地球環境を破壊する温暖化を含めて考えるべきだとの主張が強くなっています。トランプ大統領の勧めている環境政策は、これに反していますので、これも弾劾の際には強力な理由になりそうです。
これだけ多くの問題の全てについて調べ上げれば、総体として弾劾の対象にはなるだろうと思いますが、政府機関でもない限りそれだけの時間も手間も割けないのが常識でしょう。しかし、今回のFBI長官の解任が脚光を浴び、世論が高まれば、ロシアとの関係 (ウォーターゲートに関連付けて、「ロシアゲート」とも呼ばれています) について、特別検察官を設置するという結果になるかもしれません。それを避けるためにトランプ大統領はさらなる過激かつ突然の手段を取らざるを得ないかもしれません。
時々刻々新たな言動でマスコミの脚光を浴び続ける作戦が何時まで持つものか疑問ですが、これも岡潔先生の指摘した「セックス・スクリーン・スポーツ」の内の「スクリーン」の一部だとすると、そんなことに時間を取られるのではなく、人類にとってより本質的な核兵器の廃絶や、温暖化防止にこそ直ちにかつ本腰を入れて取り組んで貰いたいと思うのは私だけでしょうか。
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