大統領の弾劾(1) ――「土曜の夜の虐殺」から始まった――
大統領の弾劾(1)
――「土曜の夜の虐殺」から始まった――
アメリカ時間の5月9日、火曜日に、FBI長官のジェームズ・コミー氏が突然解任されました。長官の任期は10年、大統領はどのような理由であれFBI長官を解任できる権限を持っていますが、その力が一番最近使われたのは1993年、クリントン大統領の時代で、理由は公私混同等の倫理的なものでした。
今回は、表向き、クリントン元国務長官の私用メール問題の捜査における不手際だと発表されていますが、実は、トランプ大統領や側近たちとロシアとの関係についての捜査の本格化を妨害するためなのではないかと、多くのメディアが報道しています。
この解任劇が火曜日に起きたため、「火曜の夜の虐殺」と呼ばれていますが、それは、1973年10月20日、土曜日に起きたもう一つの解任劇である「土曜の夜の虐殺」に準えて今回の事件を捉えている人が多いからです。
「土曜の夜の虐殺」では、ウォーターゲート事件の捜査のために「特別検察官」として任命されたアーチボルド・コックス氏が解任され、氏を特別検察官に任命したエリオット・リチャードソン司法長官とウィリアム・D・ラッケルズハウス副長官は、コックス氏の解任はできないと拒否して辞任をしています。そこまで司法当局を追い詰めたのは、自分自身が捜査の対象になっていた第37代のリチャード・ニクソン大統領でした。
第37代大統領リチャード・ニクソン氏の肖像画
今回も、FBIの捜査の対象になっているトランプ大統領が、捜査の責任者であるコミー氏を解任したのですから、この二つの事件の関連性に注目するのは当然でしょう。
1973年には「土曜の夜の虐殺」が引き金になって、ニクソン大統領の弾劾という大場面に近付くのですが、結局彼は弾劾されませんでした。大統領は、下院で訴追決議の行われる直前に辞任してしまつたのです。
「土曜の夜の虐殺」と「火曜の夜の虐殺」とが対になって出てくるのには、より大きな背景もあります。解任だけがニクソン氏とトランプ氏の共通点ではないのです。
ニクソン氏はウォーターゲート事件で悪徳政治家の代名詞にさえなった政治家ですし、彼のあだ名は「Tricky Dick」つまり、「悪賢いディック」が、一般的印象を良く表しています。さらに、歴史を遡って検証すると、ニクソン氏の政治的言動、特に権力を手に入れる手法、例えば嘘の吐き方等は、トランプ氏のそれと類似点があまりにも多過ぎるという指摘もあるほどです。ニクソン氏の政治手法が結局ウォーターゲートで破綻したように、トランプ氏の手法も、ニクソン氏の場合より早く破綻するだろう、あるいは弾劾されるだろうとの予測も、特に「火曜夜の虐殺」以降多くなりました。
次回は、アメリカの弾劾制度について、そしてその可能性がかなりあることを検証したいと思います。
[お願い]
文章の下にある《広島ブログ》というバナーを一日一度クリックして下さい。
« セックス・スクリーン・スポーツ ――数学者、岡潔先生の警告―― | トップページ | 森滝市郎先生と座禅 »
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 「無責任」の論理構造 (2) ――総理大臣も、主権者たる私たちの「使用人」―― (2020.06.11)
- 『テニアン』の著者・吉永直登さんにお会いしました ――熱い思いを聞かせて頂きました―― (2019.07.15)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (3) ――何故「数学書」として読みたいと思ったのか―― (2019.07.12)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (2) ――前口上も楽しさ一杯です―― (2019.07.11)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 ――いよいよ発売です―― (2019.07.10)
「歴史」カテゴリの記事
- 1964年東京オリンピック ――同じお題で書きましょう―― (2019.07.20)
- 『テニアン』の著者・吉永直登さんにお会いしました ――熱い思いを聞かせて頂きました―― (2019.07.15)
- 扇ひろ子さんのコンサート・二葉あき子さんの歌碑(2019.07.06)
- 「論理チェック」と公務員の知的誠実さ(2019.07.05)
- 「ファクトチェック」と「論理チェック」(2019.07.04)
「アメリカ」カテゴリの記事
- 「いじめ」をなくそう (3) ――テレビ番組の役割―― (2019.07.18)
- 『テニアン』の著者・吉永直登さんにお会いしました ――熱い思いを聞かせて頂きました―― (2019.07.15)
- 「ファクトチェック」と「論理チェック」(2019.07.04)
- 『ファクトチェック最前線』を読んで「ファクトチェッカー」になろう(2019.07.03)
- あけび書房から労作『テニアン』が発売されます(2019.07.02)
「トランプ関連」カテゴリの記事
- 「ファクトチェック」と「論理チェック」(2019.07.04)
- 『ファクトチェック最前線』を読んで「ファクトチェッカー」になろう(2019.07.03)
- ロスからの訪問者 ――トランプ大統領は戦争を始める?―― (2019.05.14)
- 北東アジア非核兵器地帯の創設と市民社会 ――米朝会談後、日本政府が「はぶてる」ことのないように――(2018.07.07)
- ジョゼ・ラモス-ホルタ氏の講演 ――スピーチの最後は佐々木禎子さんでした――(2018.07.05)
コメント