イギリスの解散・総選挙 ――どちらに転んでも損をしない選択肢かも知れません――
イギリスの解散・総選挙
――どちらに転んでも損をしない選択肢かも知れません――
イギリスのメイ首相が下院を解散し、6月8日に総選挙を行う意向を記者会見で表明しました。解散・総選挙の目的はEU離脱
(Brexit とも呼ばれています。イギリスの別名Britainと、離脱を意味するexitを合わせた言葉です) を遂行するための国民的合意を取り付けることだと言明し、今後、安定した政権運営をするためには今、選挙をすることが必要だとも述べています。
一応の説明にはなっていますが、これまで官邸筋は解散・総選挙を否定してきていますので、それを踏まえるとすんなり受け入れられるシナリオでもありません。いろいろな論評が出てくると思いますが、日本のマスコミがあまり注目していない観点からの解説をしておきたいと思います。
そのための大前提ですが、保守的な政治家や力の支配を信奉している人々にとって核兵器の存在こそが最大の切り札だという事実です。例えば前にも言及しましたが、就任直後の議会でメイ首相は次のような発言をしています。
スコットランド国民党のジョージ・ケレバン議員が次のような質問をしました。「メイ首相は自ら、10万人の罪のない男女や子どもの命を奪う核兵器の使用を許可する覚悟があるのか」でした。それに対してメイ首相は、まず、躊躇することもなく「Yes」と言った後で、「核抑止で重要なのは、敵に我々が核を使用する用意があると知らしめることだ」と述べています。
(ニューズウィーク日本語版電子版2016年7月21日)
最近の北朝鮮を巡る緊迫した状況とも関係しているのかもしれませんが、「核を使用する用意があると知らしめる」ためには、先ず核を持っていなくてはなりません。しかしイギリスの場合、スコットランドが独立してしまうと、核兵器はなくなってしまいます。この点については何度か取り上げていますので、再度お読み頂ければ幸いです。
イギリスの保守派の主張通り、Brexitが実現すると、スコットランドの独立派は再度の住民投票で今度は勝つという作戦を立てていますので、ただ単に「離脱の手続きを粛々と進める」だけでは、イギリスが非核保有国になり下がるという「窮地」に追い込まれる可能性があるのです。それもかなり高い確率での話です。
となると、今、保守党の人気が高い内に選挙を行い、スコットランドでも保守勢力に勢いを付けておく、という作戦はあり得るだけでなくとても重要です。
しかし、私は敢えてもう一つの可能性に賭けたい気持です。それは、総選挙の結果にかかわらずスコットランド独立の意志は変らず、今度は独立が実現するというものです。そうなるとイギリスは非核保有国に「転落」します。
その時になって、保守派や力の支配信奉派は、Brexitを後悔し、その手続きを行ったメイ首相も、「Brexitを推進した」というラベルを張られて非難されることになるでしょう。でもそれに対する「反論」として、あれは「総選挙の結果だった」「国民の意志だった」と言えれば非難は国民にそのままブーメラングすることになります。
意地悪く考えると、このような「言い訳」を作っておくための選挙だということになるでしょうし、善意の解釈をすると、それだけ重みのある手続きだということを国民に周知し、EU離脱という結果になった国民投票後での「後悔」と同じ轍を踏まないようにするための選挙だと考えらます。
そのどちらになっても、解散・総選挙の意味があるとメイ首相は判断したのではないでしょうか。
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