もう一冊の『Dark Money』 --Citizens United と最高裁判決--
もう一冊の『Dark Money』
--Citizens United と最高裁判決--
前回はジェーン・メイヤーさんの著書『Dark Money』の内容をリストにして簡単に御紹介しましたが、その一つ一つの項目をもう少し詳しく説明したいと思います。政治とお金、選挙とお金の問題はどこでもいつでも視野に入れておかなくてはなりません。特に選挙の際の「ネガティブ・キャンペーン」という形で、対立候補についてのあることないことをテレビのコマーシャルとして流すことが、アメリカの選挙では当たり前になり、それが選挙結果を左右していることは御存知だと思います。
そのような目的のために、企業や組合が使える金額には制限がなくなったというのが、前回の⑥でした。
⑥ 2010年にはCitizens United という団体による訴訟で、企業や組合が、選挙の際に候補者に直接の寄付をしなければ、選挙運動のために使える金額は無制限であるとの最高裁の判決を勝ち取る。このことで、選挙が金で買える状態になった。
メイヤーさんの力作『Dark Money』を要約する積りだったのですが、実はもう一冊『Dark Money』という本がありました。著者はジョン・クックさん。Kindle Unlimitedに登録すると無料で読めますので、試しに読んでみたのですが、私がお伝えしたいことがそのまま書いてありましたので、クックさんのまとめた、Citizens United (CUと略します) という団体の紹介と、CUが提訴した裁判についての最高裁の判断を私なりに要約して御紹介します。
2002年に、「Bipartisan Campaign Reform Act (超党派キャンペーン改革法)」が作られました。その内容は、企業や労働組合が選挙前の一か月間は、ネガティブかポジティブかに関わらず、候補者についてのコマーシャルなどを流すために、メディアに対してお金を払うことを禁止する、という内容でした。それ以前から非営利団体についての制限はありましたので、営利団体を含めることで選挙運動についての規制が整備されたと考えられていました。
非営利団体についての規制は、お金のない候補でも選挙で極端には不利にならないような環境を整備するという目的でした。
ところが、2008年にCitizens United という、コーク兄弟から膨大な資金を受け取っている団体が、ヒラリー・クリントン候補についてのネガティブ・キャンペーンの一環としてオン・デマンドのビデオを作り、そのビデオを宣伝するメディア・キャンペーンを精力的に行いました。連邦選挙委員会(FEC)は、これが超党派キャンペーン改革法違反だと判断して、中止命令を出したのですが、CU側は、表現の自由を保障している憲法の修正第一条違反であることを理由に、裁判を起こしました。
最終的には最高裁判所が判決を下したのですが、その判断には重要な4つのポイントがあります。
① FECそして、超党派キャンペーン改革法は、憲法の修正第一条違反を犯している。
② 企業にも、個人と同様に「表現の自由」が与えられている。それは「表現」することが可能などのような主体についても、この自由が保障されているからである。
③ 巨額の資金が使われているという事実だけから、政府がそれを「腐敗」であると断定することはできない。つまり、いくら以上なら腐敗であり、それ未満ならそうではないという客観的な基準を設けることができないからである。
④ 支出額の制限を加えることは、市民の知る権利を侵害する可能性がある。情報を広げるのにはお金がかかるという理由で作られた規制によって、ある情報が隠されてしまうのは市民の知る権利の侵害になり得る。
この結果、CUそしてコーク兄弟、ならびに多くの億万長者たちは、選挙戦を勝つためには無制限に自分たちの資産を使えるようになり、アメリカ社会は大きく変りました。日本からはなかなか見えない状況のですが、トランプ大統領を生んだ社会、そしてトランプ大統領の言動を理解するために、何回かにわたって御紹介したいと思います。
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