外務省の詭弁に市民はどう対抗できるのか
「核兵器禁止条約締結への大きな一歩」 (10月30日)の一番最後に問題提起をしましたが、その続きです。
因果関係を無視した発言、妄想を事実と報道するメディア、それを簡単に信じてしまう市民と、3拍子が揃ってしまうと、何度も書きますが、「周回遅れ」が「二周遅れ」「三周遅れ」になってしまいます。もう一度、核兵器だけに限っても仕方がありませんが、何が事実であり、人類が生存し続けるためにその事実に基づいた選択ができるよう、一から考え直さなくてはならないと思います。
その中でも日本政府の反対理由を取り上げましたが、より正確に、産経新聞の電子版から引用しておきましょう。菅官房長官の言葉としての報道が一番分り易いと思いますので、その部分です。
菅義偉官房長官は28日の記者会見で、国連総会第1委員会(軍縮)が採択した「核兵器禁止条約」制定交渉開始の決議に日本政府が反対した理由について「核兵器のない世界を実現するには核兵器国の協力が必要だが、作成段階から核兵器国が関与していない」と指摘した。その上で「このようなアプローチでは核兵器国と非核兵器国の亀裂をさらに深め、核兵器のない世界の実現を遠のかせてしまう」との懸念を示した。
菅氏は「わが国は核兵器国と非核兵器国の橋渡しをして協力を進める観点から、核兵器国も取り得る現実的で実践的な核軍縮措置を推進している」
日本政府の発言に対する「国際法遵守」の立場からの反論です。これは、マーシャル諸島共和国の勇気ある行動とも関わっていますので、関連した記事、「マーシャル諸島共和国の勇気と日本政府の情けなさ」、また「In Good Faith (誠実に)――RMI提訴の却下と「白紙領収書」――」、そして「マーシャル諸島共和国の提訴は「却下」でも、判事の評価は 8 : 8」もお読み下さい。
さて、菅官房長官の発言に戻って、「作成段階から核兵器国が関与していない」のは事実です。でもそれは、核保有国が公開作業部会には参加しない、その他の多国間交渉の場にも出ない、と頑なに「国際協力」を拒否してきたからです。「核兵器国と非核兵器国の亀裂をさらに深め」は、認識が正反対です。この発言では、「亀裂」を生んだ原因がすっぽ抜けているのでこんな変てこな結果になっています。そもそも「亀裂」が生じたのは、核保有国が核不拡散条約(NPT)の違反を続けてきたからです。そんな因果関係を無視して、あたかも客観的な事実であるがのごとく「亀裂が深まる」はないでしょう。
何度も繰り返しますが、NPTの第6条の要旨です。
そして、今回の決議はその「亀裂」を解消させるために、「交渉」を始めるという内容です。しかもそれは、NPTができた時から全ての締約国が約束し、条約締結国同士がお互いに課してきた義務なのです。
核保有国と非核保有国の協力を促すこと、それ自体は抽象的に考えると問題はないように思えます。しかし、一方は法律違反をしている、他方は法律遵守を求める、という立場の違いのある二つのグループの対立です。法律違反をしているグループと同じ行動を取ってしまっては、いじめ集団の一員になるのと同じではありませんか。「法の支配」という大前提を認めるのであれば、「法律遵守」グループと同一行動を取る以外の選択肢はあり得ないのです。
喩えとして適切かどうかは皆さんの判断に俟ちたいと思いますが、仮にある集団Uがあったとしましょう。その中には、いじめをしているグループAがあり、いじめられているグループBがあったとします。さらに、グループAが怖くてお先棒を担いでいるグループCがあったとします。グループBは勇敢にも、いじめを止めるための話し合いをしようという提案を集団Uの中に行ったとしましょう。
そのときに、グループCの一員が、「いや元々、グループAがその提案に関わっていないから、おかしい。それに、その提案に賛成すると、グループAとグループBの亀裂が深くなるから話し合いをするのは反対だ」というのが日本政府の立場です。
日本政府がこんな態度を取り続ける理由の一つは、アメリカからの圧力です。そして「核抑止論」です。さらに、日本は一応、民主主義国家ですから、私たち有権者、市民がこのような政治を変えなくてはなりません。どうすれば良いのか、皆さんからの提案も是非、伺いたいのですが、一緒に考えられればと思います。
続きます。
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