アメリカの強硬な姿勢は危機感の表れ? それとも選挙対策?
アメリカの強硬な姿勢は危機感の表れ?
それとも選挙対策?
プラハから始まり、広島で改めて「核なき世界」を創る決意を述べたオバマ大統領の率いるアメリカは、「核兵器禁止条約を締結するための交渉を来年から始める」という決議案に反対しまた。多くの人の心を打ったオバマ大統領のプラハ・ヒロシマ演説は口先だけのことだった、アメリカもその大統領も信用できないとまで言う人もいます。確かに矛盾に満ちている行動ですが、それは、アメリカ社会もそして世界も矛盾に満ちていて、その矛盾にできるだけ合理的に対応しようとした結果なのかもしれません。
それを読み解くためのキーワードの一つは「危機感」です。今回の決議の出発点は、8月にジュネーブの「公開作業部会(OEWG)」で採択された報告書の中の勧告ですが、このOEWGにアメリカは参加していません。しかし、その「代理」として行動したのがオーストラリアや日本なのですが、その結果は核保有国や核依存国の危機感を増大させるものになりました。
この報告書は、意見のまとまらない点については「両論併記」という形を取り、最終的にはコンセンサス方式で採択するという「合意」ができていました。その中には、来年から核兵器禁止条約についての交渉を始めるという勧告に広範な支持があったこと、またそれに反対する国のあったことも明記されていました。
しかし、土壇場になってオーストラリアが前言を翻し、採決によって決着をつけることを要求した結果、採決に付されることになりました。その際に、グアテマラが発言、「コンセンサスで採択されるという前提なら、それなりの妥協には応じるが、採択するのなら元通りのより強い表現を盛り込んだ報告書にしたい」と修正案を提出しました。その結果、賛成多数で採択された報告書の内容は、核保有国や依存国にとっては、より不本意な内容になってしまいました。彼らの危機感はさらに大きくなったのです。
その危機感が元になってアメリカは、ニューヨーク時間10月27日に、国連の第一委員会で採択された「核兵器禁止条約交渉2017年開始決議」に、できるだけの圧力を掛け、できれば「脅し」とも受け止められる強硬な態度を示した、と考えることも可能です。
朝日新聞の電子版は、アメリカの言い分として「安全保障体制を下支えしてきた長年の戦略的安定性を損ねかねない」を挙げており、アメリカがNATO諸国や核依存国に文書でこの決議案に反対するよう要求したことも報じています。
つまり、アメリカの核政策は最低限現状維持、かつ今後の近代化・最新化計画も膨大な予算とともに変えない、という態度表明としか考えられません。となるとオバマ演説とは正面衝突です。
しかし、今年は大統領選挙の年です。しかも共和党のトランプ候補と民主党のクリントン候補が、あと一週間も残っていない今、全てを賭けての選挙戦が続いています。民主党の一員であるオバマ大統領にとっても、民主党勝利のためにあらゆる手立てを講じなくてはならない時です。特に、トランプ陣営の言い分は、オバマ政権は軟弱だった、その軟弱外交を「強いアメリカ」に戻す、といったことですから、今オバマ大統領として示さなくてはならないのは、「危機感」に代表される考え方の人たちの主張そのままに、「強いアメリカ」を打ち出すことです。選挙対策としてはそれしか考えられないほど、アメリカ社会の大勢は、「愛国」「強さ」といった価値観に左右されてしまっています。
選挙に勝つためには何でもするという考え方が如何に強いものであるかは改めて強調するまでもないと思いますが、多くの市民が日常的に影響を受ける国内の政策より、外交面での「強いアメリカ」をアピールすることが一番効果的なのですから、仮にオバマ大統領の意思とは違っていてもここは「妥協」せざるを得ないところでしょう。
しかし、11月8日の投票日後では話が違ってくるかもしれません。オバマ大統領の任期は来年の1月19日ですから、それまで2か月とちょっとあります。マスコミも世間も新大統領に注目するでしょうから、現職とはいえあまり任期の残っていない大統領が、ある程度自由に自分のしたいことを淡々と行うことも可能な時期です。そうなるかどうか、今の時点で保障はできませんが、人情として期待してみたくなる気持ちもお分かり頂けるのではないかと思います。
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米大統領選挙も最終局面に入った次期に突如ヒラリー・クリントンのアキレス腱と言われる「メール問題」の捜査再開が発表され、これは明らかにオバマ大統領の承認のもとに行われている。
表向きはヒラリーを支持するしかないオバマだが、内心では軍産ベッタリのヒラリーを支持しているわけはない。世界平和という観点では明らかにトランプの方がベターチョイス。
マスコミがこれだけトランプを叩きネット(Google、facebook、Twitter)ですら検索結果を操作しランダムなはずの世論調査で明らかに民主党支持者の割合が多い(オーバーサンプリング)世論調査ですら支持者は拮抗しており実態は明らかにトランプ有利だ。
ABCワシントンポストの世論調査では先週まで50%対38%でヒラリー優位だったが11月1日には46%対45%でトランプが優勢になった。
トランプ陣営が主張しているように集票に不正がなければトランプ大統領の誕生は間違いない状況だが、土壇場になってマスコミの誇張された優勢がはがれ落ちる劇が演じられ、実勢に近いところへと世論調査も軟着陸している状況をみると、軍産複合体の抵抗もここまでなのかも知れない。
現状では世界平和にとってヒラリーよりトランプの方がベターだが、トランプも決して平和主義者ではない。トランプが大統領になれば、来年は株価の下落、円高ドル安、金地金高になり、国際政治面でも、巨大な地殻変動が起こる。
政治というのは科学技術のようにリニアな進歩はない。
「支離滅裂」様
コメント有難う御座いました。大変複雑かつ微妙なアメリカ社会の本質的な部分を鋭く、分り易くまとめて下さり有難う御座います。
それに、長期的には大きく変わりつつあるアメリカ社会の基本的な価値観も合わせて考えると、余りにも変らない日本の政治、それどころか、周回遅れを先頭だと誤認しているリーダーたちに政治を任せるしか選択肢がないと思い込んでしまっている人たちに活を入れたい気持です。
最近よく観るサイトに「トランプが大統領になると、ロシアのプーチン、中国の習近平との間で、これからの世界秩序に関するサミットと米露中の影響圏の再配置が行われるだろう」という予測がある。つまり「新ヤルタ体制」と呼ぶべき新たな世界秩序である。
http://www.debka.com/article/25751/Clinton-and-Trump-offer-diverse-ME-scenarios
イスラエルは米国の同盟国でありながら、最近はロシアに擦り寄っており、英首相官邸もトランプ陣営と会合の場を持っている。新ヤルタ体制において英国は協力者であり、独仏(EU)は米国の強い影響下からの離脱を進め、EUの軍事統合と対露和解によりNATOを有名無実化し、豪州や韓国は中国に更に近づく。一方で日本政府は相変わらず何が起きているのかも把握できず茫然自失的な無策による自滅が続く。
「デブカ」様
コメント有難う御座いました。面白い予測ですね。軍事面あるいは地政学的な側面抜きに世界情勢は語れませんが、それだけに限定した分析にも限界があるように思います。
市民的な視点やより長期的なトレンドの整合性も合わせて考えると、違った予測もできるのではないかと思っています。如何でしょうか。
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米大統領選挙も最終局面に入った次期に突如ヒラリー・クリントンのアキレス腱と言われる「メール問題」の捜査再開が発表され、これは明らかにオバマ大統領の承認のもとに行われている。
表向きはヒラリーを支持するしかないオバマだが、内心では軍産ベッタリのヒラリーを支持しているわけはない。世界平和という観点では明らかにトランプの方がベターチョイス。
マスコミがこれだけトランプを叩きネット(Google、facebook、Twitter)ですら検索結果を操作しランダムなはずの世論調査で明らかに民主党支持者の割合が多い(オーバーサンプリング)世論調査ですら支持者は拮抗しており実態は明らかにトランプ有利だ。
ABCワシントンポストの世論調査では先週まで50%対38%でヒラリー優位だったが11月1日には46%対45%でトランプが優勢になった。
トランプ陣営が主張しているように集票に不正がなければトランプ大統領の誕生は間違いない状況だが、土壇場になってマスコミの誇張された優勢がはがれ落ちる劇が演じられ、実勢に近いところへと世論調査も軟着陸している状況をみると、軍産複合体の抵抗もここまでなのかも知れない。
現状では世界平和にとってヒラリーよりトランプの方がベターだが、トランプも決して平和主義者ではない。トランプが大統領になれば、来年は株価の下落、円高ドル安、金地金高になり、国際政治面でも、巨大な地殻変動が起こる。
政治というのは科学技術のようにリニアな進歩はない。
投稿: 支離滅裂 | 2016年11月 4日 (金) 08時17分
「支離滅裂」様
コメント有難う御座いました。大変複雑かつ微妙なアメリカ社会の本質的な部分を鋭く、分り易くまとめて下さり有難う御座います。
それに、長期的には大きく変わりつつあるアメリカ社会の基本的な価値観も合わせて考えると、余りにも変らない日本の政治、それどころか、周回遅れを先頭だと誤認しているリーダーたちに政治を任せるしか選択肢がないと思い込んでしまっている人たちに活を入れたい気持です。
投稿: イライザ | 2016年11月 6日 (日) 18時07分
最近よく観るサイトに「トランプが大統領になると、ロシアのプーチン、中国の習近平との間で、これからの世界秩序に関するサミットと米露中の影響圏の再配置が行われるだろう」という予測がある。つまり「新ヤルタ体制」と呼ぶべき新たな世界秩序である。
http://www.debka.com/article/25751/Clinton-and-Trump-offer-diverse-ME-scenarios
イスラエルは米国の同盟国でありながら、最近はロシアに擦り寄っており、英首相官邸もトランプ陣営と会合の場を持っている。新ヤルタ体制において英国は協力者であり、独仏(EU)は米国の強い影響下からの離脱を進め、EUの軍事統合と対露和解によりNATOを有名無実化し、豪州や韓国は中国に更に近づく。一方で日本政府は相変わらず何が起きているのかも把握できず茫然自失的な無策による自滅が続く。
投稿: デブカ | 2016年11月 6日 (日) 18時12分
「デブカ」様
コメント有難う御座いました。面白い予測ですね。軍事面あるいは地政学的な側面抜きに世界情勢は語れませんが、それだけに限定した分析にも限界があるように思います。
市民的な視点やより長期的なトレンドの整合性も合わせて考えると、違った予測もできるのではないかと思っています。如何でしょうか。
投稿: イライザ | 2016年11月 6日 (日) 22時34分