「亀裂を深めている」だけでなく「作り出している」日本政府・外務省
「亀裂を深めている」だけでなく「作り出している」日本政府・外務省
昨日に続いて、日本政府と外務省の言い分こそ、「亀裂を深めている」こと、それが不誠実かつ暴論に依っていることを検証したいと思います。
菅官房長官の言うとおり、核保有国と非核保有国との間に亀裂のあるのは問題です。そこで問題点は二つに分けられます。一つ目は、その亀裂を解消させるためにはどうすれば良いのか、そしてもう一つは、そんな亀裂を作ったのは誰なのか、です。
一つ目の答は簡単です。核兵器を廃絶すること、つまり核保有国をなくすことです。しかし、その正論が分らない核保有国が、核不拡散条約で自ら約束した「誠実な交渉義務」を果さないことが亀裂の原因です。亀裂をなくすためには、誠実に交渉をすれば良いだけの話ですし、国連の第一委員会で、わざわざ決議までして来年2017年から交渉を始めますとお膳立てをしてくれたのですから、それに参加すれば良いだけの話です。
繰り返すと、「亀裂を深めている」のは核保有国です。来年交渉を開始しましょうという内容の決議ではありません。何がテーマではあっても、交渉つまり「話し合い」が「亀裂」を深めるという認識そのものが常識に反しています。非常識な反対票を入れた日本政府は、それだけではなく、自らが「亀裂を深めている」ことには気付かず、あるいは気付いていても気付かない振りをしているのかもしれませんが、決議そして決議に賛成した国々を非難しています。
今回は、日本政府が「亀裂を深めている」こと、そして核兵器の廃絶に反対していることをハッキリ示しているもう一つの事実を復習しておきたいと思います。既に、「In
Good Faith (誠実に)――RMI提訴の却下と「白紙領収書」――」で説明しましたが、「亀裂を深めている」という視点から再度日本政府の言動をおさらいしておきたいのです。
何度もお浚いをすることの理由ですが、同じ事実でもまとめ方が違うと新たな景色が見えることが多くあるからです。また視点が変わっていても、何が事実なのかということから始めるという順序も大切だと思いますので、お付き合い下さい。
まず、核兵器の廃絶に関連して存在する唯一の条約が「核不拡散条約(NPT)」ですので、これが出発点です。日本も批准していますからこの条約に縛られます。また核保有国の中では、旧来の核保有五カ国、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国も批准しています。当然この条約の遵守義務があります。
その他の核保有国、つまりインド、パキスタン、北朝鮮、それに疑惑国イスラエルはNPTには加盟していませんが、国際慣習法という観点からは、この条約の考え方、さらにそれをちょっぴりですが強めた国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見(1996年)等には縛られます。
その中でも、第6条の「誠実な交渉義務」が重要です。今回の決議でも、マーシャル諸島共和国(RMI)による提訴でも、この点がカギなのです。その内容は昨日も掲げましたので、ごく簡単に言ってしまえば、核兵器を禁止する条約締結のための多国間交渉に全ての締約国は誠実に参加しなくてはならない、というものです。
核保有9カ国が、この第6条違反をしているという廉でマーシャル諸島共和国が、ICJへの提訴に踏み切りました。詳しくは、「マーシャル諸島共和国の勇気と日本政府の情けなさ」をお読み下さい。
その結果は、「マーシャル諸島共和国の提訴は却下 でも判事の評価は8:8」で報告したように、「却下」でしたが、日本政府の代表は「却下」に一票を投じました。それも極めて人工的かつ技術的な理由であることは、「In Good Faith (誠実に)――RMI提訴の却下と「白紙領収書」――」で説明したとおりです。極端なことを言えば「反対のための反対」です。
逆に、「提訴を取り上げる」方に一票を入れ、その立場を貫いていれば、RMIの主張は、その後の審議でも認められることになったはずです。つまり、「核保有国は核兵器禁止条約締結に至る交渉に応じなさい」、という結論になった可能性が高いのです。「被爆国」と自らの立場を国際社会で規定してその結果としてかなりの影響力を行使している日本が、事もあろうにRMIの提訴についての、可否を握る一票を手にしながら、NPT条約の規定を守らず、被爆者の意思も無視するという暴挙に出たのです。
そして「亀裂を深めている」という視点から考えると、裁判という手段ではあってもそれは両サイドが、意見は対立していても、話し合いに応じることですから、亀裂を修復するプロセスだと考えられるのではないでしょうか。
では日本政府は「亀裂を深めている」状態改善のために何をしているのでしょうか。罪状を読み上げるだけでも時間が掛かりますが、一つだけ挙げておけば、オバマ政権が核の先制不使用を宣言しようとしたときにそれに反対したこと、その理由というより、脅しとして使ったのは、アメリカが核不使用宣言をすれば日本は核武装も辞さない、という日本政府の「本音」をちらつかせることです。アメリカに現状維持を迫る、仮にそれが駄目なら、核廃絶とは正反対の「核武装」をするという選択肢の提示は、まさに「亀裂を深めている」ことに他なりません。
当然アメリカの姿勢も問題です。
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お誕生日おめでとうございます。
投稿: ふぃーゆパパ | 2016年11月 3日 (木) 10時13分
「ふぃーゆパパ」様
御祝辞有難う御座います。
何時も、法曹の現場からの貴重な報告や感想有難う御座います。とても勉強になります。
投稿: イライザ | 2016年11月 3日 (木) 11時37分