アメリカ社会は変ったのか(3) トランプ勝利とアメリカの保守化
アメリカ社会は変ったのか(3)
トランプ勝利とアメリカの保守化
前回は、エスタブリッシュメントの基本的な考え方が30年以上、共和党に牛耳られていた結果として、世論に反映される社会の価値観が保守的になったのか、あるいは社会の保守化が、このようなエスタブリシュッメントを実現させてきたのかは兎も角として、長期的な保守化の傾向の行き着く先として、トランプ政権の誕生につながったと見ることも可能であることを指摘しました。
しかし、それだけでは説明できない重要な事実がいくつかあることにも注目したいと思います。一番分り易いのは、大統領選挙での総得票数はクリントン候補の方が多かったという事実です。
それでも、トランプ候補が勝ったのですが、それは保守派の力が大きかったからなのでしょうか。「ドナルド・トランプが大統領になる5つの理由を教えよう」を再検証することでこの点を考えて見ましょう。そのためにマイケル・ムーア氏が掲げた5項目をお浚いしておきましょう。
1.) 中西部の票読み。
2.) 怒れる白人、最後の抵抗。
3.) ヒラリー問題。
4.) 意気消沈したサンダース支持者票。
5.) ジェシー・ベンチュラ効果。
1.)と4.)は、選挙戦術に属する問題で、社会全体の動きと関連はあるものの、保守化の傾向あるいはリベラル化しているかどうかという次元とは違ったレベルでの動きです。確かに、2.)は、リベラル化している社会への反発ですから、保守的な人たちの声を反映しています。しかし、対等な立場からの反対というよりは少数派になった危機感の顕在化と見た方が良さそうにも思えます。3.)は、クリントン候補が本来はリベラルな立場を取るべきなのに、エスタブリッシュメントの一員としてお金の問題、信頼性の問題、力の政策等、保守派の立場に依り過ぎているという批判が主ですので、保守派の力を示している事情ではありません。そして5.)は、変革を求める人たちの声の反映ですので、これもこれまでの共和党政権批判と見るべきなのだと思います。
マイケル・ムーア氏の分析を元に何故トランプ氏が選挙に勝ったのかを考えるとき、アメリカ社会が保守化しているからだと総括するのは早計だと考えられます。つまり、総得票数でクリントン候補が勝ったのは、アメリカ社会が徐々にではあってもリベラル化しているからだと断定できないにしろ、少なくとも、リベラル化しているという仮説とは矛盾しないと言っても良いのではないでしょうか。
それだけではなく、圧倒的な差がある訳ではないのですが、「僅差」でアメリカは良くなっていると主張したいと思っています。その理由をいくつか挙げておきましょう。
① 総得票数では、クリントン勝利。
② アル・ゴアも総得票数では勝っている。
③ 議会に阻まれて、100パーセントの成果は残せなかったが、オバマ政権の遺産は長く残る。
④ 中でも、「原爆投下は正しかった」と考える人たちの数が減っていることは、その柱の一つ。
⑤ その結果として、「世界の警察官」は止めると考える方向は正しい。
⑥ さらにこれは人類史的な傾向の一部。その傾向はSteven Pinker著の”The Better Angels of Our Nature” に詳述されている。
詳しくは次回に。
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