気になる日本語 「申し遅れましたが」
「申し遅れましたが」
夏の広島では多くの会合が開かれます。そしてどの会合でも司会が必要です。プロの司会者が活躍する場合もありますし、主催者側のスタッフの一人が担当することもあります。会の内容そのものが司会者の一存で決まることはまずないでしょうから、その点からは比較的に楽な仕事だと言えるのかもしれません。
とは言え、結婚式の披露宴や、慶弔混ぜこぜにして申し訳ありませんが、通夜や葬儀では、司会によっては、その場の雰囲気がぶち壊しになることもあるようですので、その役割が重要であることを改めて強調しておくべきなのかもしれません。
話は30年ほど前に飛びますが、当時アメリカから広島に居を移して、とにかくいろいろな会議に出席していました。どの会議や会合でも新たなことを学べましたし、何人かの出席者とは親しくなれましたので、いろいろな会に出席するのはとても楽しみでした。
アメリカでも様々な会合が開かれ、多くの集まりにも参加してきましたので、自然に日米比較をすることになっていました。その中で、日本の司会者の「奥床しさ」に感激したことかあります。
それは、例えば次のようなシーンでの司会の言葉と仕種がアメリカとは違っていたからです。架空の、「全国シニアカラオケ大会」の開会式の司会の言葉をでっち上げて私がどこで感激したのかを再現してみましょう。
[比較的若い女性の司会者だと仮定しましょう]
皆様ようこそ、第一回全国シニアカラオケ大会広島大会にお越し下さいまして有難うございます。5月にはオバマ大統領も訪問されたこの地で、カラオケを通して平和への祈りを捧げる意味が如何に大きいか、全国各地から参加された皆様には感慨深いものがおありだと思います。
暑くて湿気の多い広島ですので、せめて、食べ物で涼しさを味わって頂ければと思いますが、「熱を持って熱を制す」お好み焼きもお勧めです。昨夜もうお出かけになった方もいらっしゃるのではないかと思います。
さて今夜のプログラムは、砕けた形の開会式ではあるのですが、始めのお言葉はカラオケに賭けること50年、私の師匠でもある、○村☓次郎、広島市シニアカラオケ協会会長にお願い致します。
申し遅れましたが、私は本日の栄えある舞台の司会をさせて頂きますシニアカラオケ協会の特別会員○野花☓でございます。本日は宜しくお願い申し上げます。
私が感激したのは「申し遅れましたが」というセリフです。本来なら最初に名乗り、その上で司会を始めるべき立場の人が、何らかの都合、例えば話の流れで自己紹介をする機会を逸してしまった。そのことをやんわり伝えて、「申し遅れた」という言葉で、責任は自分にあることを自覚しながら、失礼をしてしまったことのお詫びをしている、という日本的な「奥床しさ」だと感じたのです。
でもその印象はひと月も経たない内に消えました。どの会合に行っても、司会者は最初にグダグダ下らないことを言って、(たまには爽やかなイントロもありましたが)暫くしてようやく「遅ればせながら私は誰野誰米と申します」が出てくるのです。これは奥床しさではなく、司会業では、こういう流れで喋るのだという、質の低いマミュアルがあって、その通りの繰り返しをしているだけではありませんか。
しかもプロでもこのマニュアルに違和感を持っていない人がほとんどらしいことも分って吃驚しました。
どんな会合でも、突然誰か知らない人が前に立って、話し始めたら、一体この人は誰だろうと感じるのが普通でしょう。まずは名前と、どのような立場でそこに立っているのかを自己紹介しなくては、会は始まらないはずです。いや始めてはいけないでしょう。
昔の戦でも、「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ、我こそは天下に知れた四天流免許皆伝、伊智露藩徒組○野∠米である」といった形で、まず名乗りを上げてから、敵と一勝負をしたのですから、その日本的伝統を生かして、最初に簡単でも良いのですから、自己紹介をすべきだと思います。
今年、2016年夏の原水禁世界大会関連の会合にいくつも出ましたが、その全てで、最初に自己紹介をきちんとしてくれました。つまり、私の心配は杞憂になったのですが、原水禁以外の会合では、途中からの「申し遅れましたが」定着していて、残念な結果になったケースがかなり見られました。
原水禁大会開会式前
より一般的に考えると、初めて会う人には、まず自己紹介をしてから話を始めるという礼儀に行き着くのですが、その辺りからしっかりと反省し直す必要もあるのかもしれません。
[お願い]
文章の下にある《広島ブログ》というバナーを一日一度クリックして下さい。
« オバマ効果 | トップページ | 核先制不使用宣言 (「オバマ効果」その3) »
「ニュース」カテゴリの記事
- 自動車運転の安全性を高めるために (2) ――2019年版「交通安全白書」―― (2019.06.22)
- 日本語「無支援」の外国籍の子どもたち ――一万人以上います―― (2019.05.08)
- 生前退位と憲法(2019.05.04)
- 朝見の儀と憲法(2019.05.03)
- 災害対策予算の大幅増額を! ――豪雨災害からの教訓 (6)――(2018.07.15)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 「無責任」の論理構造 (2) ――総理大臣も、主権者たる私たちの「使用人」―― (2020.06.11)
- 『テニアン』の著者・吉永直登さんにお会いしました ――熱い思いを聞かせて頂きました―― (2019.07.15)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (3) ――何故「数学書」として読みたいと思ったのか―― (2019.07.12)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (2) ――前口上も楽しさ一杯です―― (2019.07.11)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 ――いよいよ発売です―― (2019.07.10)
「言葉」カテゴリの記事
- 「無責任」の論理構造 (2) ――総理大臣も、主権者たる私たちの「使用人」―― (2020.06.11)
- 日本のテレビは「いじめ」を助長している ――みんなで声を上げましょう―― (2019.07.19)
- 「いじめ」をなくそう (3) ――テレビ番組の役割―― (2019.07.18)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (3) ――何故「数学書」として読みたいと思ったのか―― (2019.07.12)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (2) ――前口上も楽しさ一杯です―― (2019.07.11)
「平和」カテゴリの記事
- 『テニアン』の著者・吉永直登さんにお会いしました ――熱い思いを聞かせて頂きました―― (2019.07.15)
- 扇ひろ子さんのコンサート・二葉あき子さんの歌碑(2019.07.06)
- 「ファクトチェック」と「論理チェック」(2019.07.04)
- 『ファクトチェック最前線』を読んで「ファクトチェッカー」になろう(2019.07.03)
- あけび書房から労作『テニアン』が発売されます(2019.07.02)
コメント
(あなたが怪しい人のようなに感じたので、今まで名乗るのを躊躇していましたが
いま、少し話してみて、そう悪い人でもなさそうなので、名前をお教えしましょう)
申し遅れましたが、わたくし、奈々子のパパと申します。
( )内が省略されているそうです。
例えば充て職や順番で司会を受ける時(PTA総会とか町内会とか)多くの場合、進行表と原稿が用意されていますが、挨拶と出席のお礼に続き、どう考えても、申し遅れていないタイミングなのに「申し遅れましたが…」と書かれていることがあります。
しかも出席者の全員が確実に自分を知っている、という場合でも、台本には、そう書かれていたりします。
ですから「奥ゆかしさ」などカケラもない私としては、いつもそこは飛ばして、せいぜい「こんにちは」とか「◯◯です」と名前を言うくらいで始めていましたが、一国の首相でも、広島と長崎で用意された日付と場所以外は殆ど同じコピペ原稿をそのまま読むくらいですから、「申し遅れましたが…」くらいは何でもないことなのかも知れません。
「⑦パパ」様
コメント有り難う御座いました。こういう状況もあるのですね。家族って大変ですね。
「工場長」様
コメント有り難う御座いました。台本を事前に準備するなら、「申し遅れましたが」と言わなくても済むところで自己紹介をするように書くくらいの配慮はできるはずですよね。
たくさんの挨拶をしなくてはならない仕事に就いていても、前と同じ内容のものを官僚の書いた通りに読むって、努力しないとできないのではないかと思います。現総理の場合、「戦争や核兵器礼賛」の言葉をせめて広島や長崎で抑えるというのが「努力」の中身なのでしょうか。
(あなたが怪しい人のようなに感じたので、今まで名乗るのを躊躇していましたが
いま、少し話してみて、そう悪い人でもなさそうなので、名前をお教えしましょう)
申し遅れましたが、わたくし、奈々子のパパと申します。
( )内が省略されているそうです。
投稿: ⑦パパ | 2016年8月17日 (水) 12時00分
例えば充て職や順番で司会を受ける時(PTA総会とか町内会とか)多くの場合、進行表と原稿が用意されていますが、挨拶と出席のお礼に続き、どう考えても、申し遅れていないタイミングなのに「申し遅れましたが…」と書かれていることがあります。
しかも出席者の全員が確実に自分を知っている、という場合でも、台本には、そう書かれていたりします。
ですから「奥ゆかしさ」などカケラもない私としては、いつもそこは飛ばして、せいぜい「こんにちは」とか「◯◯です」と名前を言うくらいで始めていましたが、一国の首相でも、広島と長崎で用意された日付と場所以外は殆ど同じコピペ原稿をそのまま読むくらいですから、「申し遅れましたが…」くらいは何でもないことなのかも知れません。
投稿: 工場長 | 2016年8月17日 (水) 12時28分
「⑦パパ」様
コメント有り難う御座いました。こういう状況もあるのですね。家族って大変ですね。
投稿: イライザ | 2016年8月17日 (水) 14時59分
「工場長」様
コメント有り難う御座いました。台本を事前に準備するなら、「申し遅れましたが」と言わなくても済むところで自己紹介をするように書くくらいの配慮はできるはずですよね。
たくさんの挨拶をしなくてはならない仕事に就いていても、前と同じ内容のものを官僚の書いた通りに読むって、努力しないとできないのではないかと思います。現総理の場合、「戦争や核兵器礼賛」の言葉をせめて広島や長崎で抑えるというのが「努力」の中身なのでしょうか。
投稿: イライザ | 2016年8月17日 (水) 15時23分