十分条件的に考える
十分条件的に考える
予測のできた悪い結果を受け入れなくてはならない時、それも未練がましく、できれば予期せぬ事態が発生することも祈りながら確定的瞬間を迎え、嫌々ながら現実と向かい合うことになるのは、いくつになっても憂鬱です。しかも今回は、憲法改正の発議に必要な2/3の壁が崩れてしまったのですから、この結果はさらにじわじわと社会全体を侵食して行くことになるのかもしれません。
だからと言って手を束ねている場合ではありません。戦争への道を直走りにしかも破廉恥に追い求める政権に対抗する世論を作らなくてはなりません。こんな事態になってしまったのは、主権者たる国民、その代表として力を行使できる立場にある議員をはじめとする公務員、様々な手段で多くの人に対する働きかけをしているオピニオン・リーダー、子どもたちに正確な知識を与え考える力を涵養する立場の教育者、多くの人の目に触れるという意味で、その言動が常に多くの人々に影響を与える芸能人をはじめとするマスコミやスポーツ界の人気者等々、多くの人々のこれまでの考え方や行動の結果だと言って良いと思います。
私自身、もっと違った手段であるいは表現方法で、あるいは違った仕事を通して、もっと大きな影響力を発揮できなかったのか等、特に公職を離れてから反省することしきりです。そして、改めて来し方を振り返ってみて愕然としたのは、憲法について、あるいは憲法をめぐる事態の深刻さに十分気付いていなかったことです。
とは言え、いわゆる護憲派の一人として、それぞれの時代に自らに与えられた立場からはみ出てまで、頑張ってきたという自負はありました。その私が深刻さを十分に認識していなかったと考えざるを得ないのですから、毎日新聞の調査で「2/3の意味を知らない」と答えた6割以上の人たちは勿論、知っている人でも、憲法をめぐる情勢がこれほど深刻であることに気付いている人は恐らく少数派なのだと思います。
もちろん、私も長い間「深刻」だとは思っていたのです。でもそんな言葉では到底表現できないほどの深刻さなのです。
私の悪い癖で、本題に入る前の口上が長くなってしまっています。それは、私自身深刻さに気付くのに、どのようなことをどう考えていたのかを説明したいからです。そのカギが、前回の命題についての図式ですし、「十分条件的な考え方」なのです。
「衆議院・参議院とも改憲派が2/3以上を占めた」を命題「p」としましょう。「憲法改正の発議ができる」が「q」です。すると、今回の選挙の意味は「p ⇒ q」が成り立つことなのですが、その先を考えて見ましょう。96条の規定では、国会での改正の発議を受けて、国民投票が行われ、過半数が賛成すると憲法が改正されることになります。
恐らく最初は、誰も反対しないようなマイルドな改正を行い、「憲法改正って、反対するほどのことはない」という印象を作る作戦が取られることになるでしょう。良く引き合いに出されるのが「環境権」です。そして、国民投票そのものに対する違和感がなくなり、投票率も下がったところで、本番の9条改正が出てくるというシナリオは、複数の人が予測しています。
このシナリオに待ったをかけるためには、世論が大切です。前に掲げた様々なプレーヤーの役割も大切になります。そのためにも、かつての失敗を振り返って、何ができたのか、中でも私たち一人一人には何ができたのかを考えられればと思います。
そのために今度は、「q」としては、「衆議院・参議院とも改憲派が2/3以上を占めた」を取り上げたいと思います。「p」の可能性はいろいろありますし、まさにその点が重要だと言いたいのですが、先ず、「小選挙区制が導入された」を「p」にしましょう。
次回は本題に入ります。
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