多様性は尊重されなかった
多様性は尊重されなかった
小選挙区制度を導入するための法案は4つあり、通常政治改革4法案と呼ばれます。その審議の結果ですが、衆議院で可決、参議院で否決されました。このような場合に法案はどうなるのか、憲法には当然規定があります。
第59条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
大原則としては、両院で可決されない限り、法案は廃案になるということです。つまり、「政治改革4法案」は廃案にされるべきだったのです。これが2院制の存在意義だと言っても良いでしょう。参議院が常に衆議院と同じ判断を下すのであれば、2院制は必要ではないからです。仮に衆議院で可決されても、別の視点から法案を見直すことで、よりよい判断ができる場合のあることは、最近はかなり普及してきた医療面での「セカンド・オピニオン」が大切なことからも理解して頂けると思います。
しかし、第3項では両院協議会を開いて妥協案を作っても構いませんよという、「仲裁」的な可能性も認めています。衆議院と参議院が真っ向から対立するのではなく、歩み寄ることでより良い結果が生じることも考えられるからです。そして、予算や条約、首班指名の場合は衆議院の優越が認められています。両院協議会を開くことが義務付けられ、そこで成案が得られなければ衆議院の決定に従うことになっています。もう一つの可能性もあります。衆議院が3分の2以上の賛成で再度可決すれば、参議院が反対しても法律ができるのです。
ただし、通常の法律案の場合には、両院協議会を開く必要はありません。しかし衆議院が開催を請求した場合は参議院がそれに従わなくてはなりません。
政治改革4法案の場合は、衆議院が両院協議会の開催を請求して、1994年1月26日の夜に両院協議会が開かれました。衆参それぞれ10人の委員で構成し、議長は衆参それぞれで選ばれ、一日交替で議長を務めます。しかし、協議は整わず、27日に、両院協議会の議長が衆参両院の議長に協議会終了の報告に行っています。
当時細川総理大臣の政務秘書官だった成田憲彦氏が北海道大学の法学論集46に寄稿している「政治改革法案の成立過程 -官邸と与党の動きを中心として-」によると、当時の土井議長は、その報告を受け付けず、協議会を続けるよう指示したというのです。その部分の引用です。ページは(6・473)です。
(http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/15657/1/46%286%29_p405-486.pdf)
この時に、市川書記長が両院協議会打ち切りについての衆議院議長への報告から戻ります。
市川「議長は『明日もやってください。もったいない』という話でした。私と大出(俊)さんで説明。―――(打ち切るのは)山本(富雄・参議院自民党幹事長)さんも議長の責任を出すのは反対だがやむを得ないと。二回駄目を押した。委員部も『瑕疵があるとは思えない』と。共産党の橋本(敦)さんまで『やむを得ない』と。出てきたところに河野さんと森さんが。大出さん、議長に『組織を潰すつもりですか』、とカンカンに怒っていた。」
(中略)
与党のラインに沿って、市川さんとコンビを組んで、議長に対しても、「議長の対応はけしからん」と大出さんが怒ってくれたのです。
この部分が「驚くべき真実」です。その理由は次回説明しますが、その間、細川総理と河野自民党総裁とのトップ会談が行われ、妥協案が作られました。以下、表面的に「正史」として語られる内容ですが、それを受けて、(終了したはずの)両院協議会が再度開かれ、成案を得たのち、国会法の規定に従って両議院で可決、政治改革4法案が法律になったのです。その結果として、日本の政治が大きく歪んだ、ということは既に指摘しました。
どんどん長くなっています。済みませんが次回に続きます。
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