タヒチの独立
タヒチの独立
信仰心に篤いタヒチの人たちが、フランスの横暴な核実験に反対し、またその被害に遭った人たちの人権回復に立ち上がったのには、キリスト教のリーダーたちの影響力が大きかったことは前回、説明しました。今の時点で、このような動きが出てくことは素晴らしいのですが、より長期的に考えることも必要です。
フランスが「仏領ポリネシア」で核実験をしたのは、その地域がフランスの植民地だからですし、放射線対策もせずに「安全だから」と嘘を言って現地の労働者を危険に曝、したのも同じ理由からです。また、今になってもこうした事態を認めずお座なりの政策を取っていることも同根です。
そして、キリスト教のリーダーたちの人権回復運動が広まったのは、タヒチの人々の多くが信仰に篤いキリスト教徒だからですが、そもそもキリスト教がタヒチに広まったのは、植民地主義と表裏一体の関係にあります。このことを理解するために、タヒチの歴史を簡単に振り返っておきましょう。
この地域を西洋人が初めて訪れたのは、1768年で、ウォリスとブーゲンビルの名前が残っています。特にブーゲンビルは、山本五十六元帥がその上空で戦死した「ブーゲンビル島」の名前の由来でもあります。また、「ブーゲンビリア」あるいは「ブーゲンビル」として知られる花は、彼が世界一周航海中にブラジルで発見したために彼の名前が付いています。
ブーゲンビルの花
しかし、その後のタヒチの歴史は御多分にもれず、キリスト教と軍隊、そしてビジネスが一体になった勢力によってこの地域を侵略し征服して行く植民地化のプロセスです。その予兆とも言えるのが、1789年の「バウンティ号の反乱」です。映画にもなって、良く知られている船の乗っ取り事件ですが、この舞台がタヒチ島です。
当時のタヒチは、複数の首長国との間での戦闘が続く戦国時代だったのですが、それに勝利を収めたのはポマレ王でした。それは、キリスト教の布教を許可する条件として、武器が提供されたからです。この武器の提供に一役買っていたのがバウンティ号でした。
しかし、ポマレ王朝は次第にフランスの介入に抗しきれなくなり、1844年から1846年までのフランス・タヒチ戦争を経て、1847年、主権を譲渡してフランスの保護領となり植民地化の仕上げができたのです。
植民地化に反対する運動は当時からありましたが、特に顕著になったのは、第二次世界大戦後です。世界の趨勢を無視できず、フランス政府も徐々に自治権の拡大をしています。特に1957年には、それまでより大幅な自治権の拡大が実現し、「フランス領ポリネシア」は「国際連合日自治地域リスト」から削除されました。このリストは重要です。脱植民地化を掲げた国際連合憲章の趣旨を生かすために、このリストに載っている地域の自治化の進行状態等を統治国が毎年国連に報告する義務を課す等のきまりがあるからです。
しかし、タヒチの住民の強い働き掛けにより、2013年5月17日に、再び、このリストに加えられました。その結果、独立運動もかつての勢いを取り戻しつつあります。それを可能にした国連決議を彫り込み記念する石碑が、タヒチを見下す小高い丘に建立されています。
国連非植民地化特別委員会の決議記念碑
タヒチの独立運動のリーダーの一人は、タヒチの大統領を務めたこともあるファアア市のオスカー・テマル市長です。彼は1983年以来、市長を務めているのですが、先ず市長に就任すると直ちに、フランス・タヒチ戦争のタヒチ側の戦没者の慰霊碑を建立しました。「それまでは、フランス兵士の慰霊碑しかなかったから」という理由です。タヒチでは市長を務めながら大統領も兼任できるのですが、テマル市長は次の大統領選挙に出馬し、恐らく勝てるだろうと予測していました。それをバネにタヒチの独立実現のために直接フランス政府と掛け合う計画等、70歳を過ぎた今でも積極的に活動を続けています。
テマル市長
偶然のことではあるのですが、私たち一行が、ファアア市のテマル市長とお会いした日に国連の非植民地化特別委員会が2016年の会議を終え、9月に開かれる国連総会に提出する決議案を取りまとめています。
その内容は、2013年の非植民地を目指す決議があるにもかかわらずほとんど何もせず、年次報告の義務さえ果していないフランス政府には厳しい内容になるはずですが、核実験による被害だけではなく、植民地としても大きな被害を蒙ってきたタヒチの未来のためには、世界の世論がしっかりと国連の後押しをすることが必要です。
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