なぜ広島を訪れるのか (ヒロシマ演説を読み解く――その6)
なぜ広島を訪れるのか
(ヒロシマ演説を読み解く――その6)
オバマ大統領のヒロシマ演説を取り上げています。演説の文章を参照したい方は、[参考資料]
を別のウィンドウで開いて頂ければ幸いです。なお、「変革のための4原則」の番号との混乱を避けるため、演説の段落はローマ字に変えました。
私たちが何らかの行動を取るとき、必ず目的があります。「お腹が減ったからご飯を食べる」というように、その目的を具体的に示せる場合もあれば、もう少し抽象的に「都政の混乱を避けるために、辞職する」というようなものもあります。もっと大きく括ると、「変化を起こす」ためです。つまり目的は「変革」なのです。
プラハ演説では、「核なき世界の実現」がその変革の内容でした。プラハでは、アメリカ合衆国の大統領として、その出発点となる具体的な政策が述べられました。その後、その全てではありませんでしたが、いくつかの課題は乗り越えることが出来ました。しかし、残念なことに道はまだ遠い状況です。
そのような背景がある中での「広島訪問」ですが、その行動によって、何をどう変えようとしているのか、それを説明しているのがヒロシマ演説だと考えて良いでしょう。
さて、ウエスト教授の4原則に照らすと、第①原則の「変革の力は私たちにある」ことは、既にプラハで確認済みです。「Yes, we can.」が何よりも強くそのことを示しています。ヒロシマ演説でも何度かこのことは確認されますが、力を発揮する上で大切なのが、歴史的な文脈です。
段落(a)では歴史的に大きな枠組みとして、世界が変り、人類滅亡の可能性まであることを指摘しています。その枠組みの中で、段落(b)で、広島へ来ることの意味を問うているのですが、それは私たちの持つ力をどのように活用すべきなのか、という問でもあります。4原則の内の第①を深めているのです。
答は、まず核時代について考え、原爆の犠牲になった死者を悼み、さらに、死者の魂が私たちに問い掛けている「我々は誰なのか、そしてどこへ行こうとしているのか」を考えるためだということになります。
次の(c)と(d)では、最初に、広島が他の地域や時代と違っているとすれば、それは戦争があったという事実だけに依るのではないと断って、人類の戦争の歴史を振り返っています。「だけ」ではないという意味は後段で明らかにされます。
そして、戦争の手段、動機、被害を思い起こし、文明や豊かさの半面、戦争の起きる土壌も準備されていたことを想起し、最後に第二次世界大戦の総括に至ります。
この部分を読んで、どうしても比較せずにはいられないのが、昨年発表された総理大臣の戦後70年談話です。オバマ大統領の描く戦争やその被害の歴史には当事者意識がはっきり表れています。つまり「私たち」人類の歴史だという当事者としての気持が込められています。安倍総理の談話は、「他人事」としての歴史としか感じられませんでした。当事者としての責任を回避する意図だけははっきり出ていましたし、戦争に至る「口実」も白々しいものだったことも残念でした。
次回は、戦争の歴史の中でも、「口実」を取り上げた部分を読みたいと思います。
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