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2016年6月 9日 (木)

理想を掲げる――その2 リンカーンの理想、そして乗り越えた現実

理想を掲げる――その2

リンカーンの理想、そして乗り越えた現実

 

その1の最後に「整理しておくべきことの一つが、現実と理想の折り合いをどう付けるのかという点です」と書きました。さらに、「プリンストン大学の哲学者、コーネル・ウエスト教授の『Race Matters (人種の問題)』が参考になります」と続けたのですが、ウエスト教授にはもう少し後にお出まし頂くことにして、今回は「現実と理想の折り合い」を付けて上手く行った例、リンカーンの業績を紹介しておきます。

 

「オバマ効果」 のコメントにも書きましたので、一部重複しますが、やはり本文を読まれる方の方が多いと思いますので、それに免じてお許し下さい。

 

Abraham_lincoln_head_on_shoulders_p

 

リンカーンが奴隷解放の立役者だったことは良く知られています。しかし彼は、1861年大統領に就任して即座に奴隷解放を行ったのではありません。それどころか、奴隷制度の存在は容認しその拡大を防ぐという立場を取りました。その理由の一つは、大統領は憲法を遵守する義務があり、当時のアメリカ合衆国憲法は奴隷制度を認めていたからです。もう一つは、奴隷州からなる「南部」がアメリカ合衆国から独立して新たな国を作るという動きが強まっていたからです。事実南部のサウスカロライナ州、フロリダ州、ミシシッピ州、アラバマ州、ジョージア州、ルイジアナ州およびテキサス州は合衆国を脱退してしまいます。こうした動きがあったにもかかわらず、リンカーンは、アメリカが分裂しないことを最優先していました。つまり、奴隷制度の廃止以上に一つのアメリカを保とうとしていたのです。

 

そのリンカーンの姿勢は南部、北部両サイドから批判されます。南部からは奴隷廃止論者として敵視され北部の奴隷制度廃止論者からも奴隷制度を擁護していると非難されました。

 

しかし、1863年には、戦争に勝つためという大義名分を使って、軍の最高責任者として奴隷解放宣言を出しました。これは憲法の改正ではありません。そもそも大統領が憲法改正の権限を持っている訳ではありませんので、これは当然なのですが、念のため確認しておきました。

 

名前は「奴隷解放」宣言なのですが、全ての奴隷を即座に解放したのではなく、解放されたのは、例えば北軍が領土とした南軍の旧支配地に住んでいる奴隷、あるいは北部に逃げてきた奴隷でした。さらに、奴隷州ではありながら北軍についたメリーランド州、デラウェア州、テネシー州、ケンタッキー州とミズーリ州では奴隷制度は合法だとみなされたのです。

 

これでは、奴隷解放論者からも奴隷制度維持論者からも批判されても仕方がないのですが、それはリンカーンの優柔不断さでもなく、狡猾な詐術でもなく、極めて複雑な現実の中で、それでも理想を実現しようとして一歩一歩進んで行く中での勇気ある決断だったのだと思います。

 

もっと詳しく説明したいところなのですが、スペースがありませんので先に進みます。このように、1863年の奴隷解放宣言だけでは全ての奴隷は解放されませんでしたので、1865年に憲法の修正第13条という形で、奴隷制度が完全に、法律の上では廃止されました。それから100年以上も人種差別が続いたことも皆さん御存知の通りですが、それはまたの機会に取り上げられればと思います。

 

もう一つ、奴隷解放宣言に関連した出来事として、140年後の2005年、ブッシュ大統領はリンカーン大統領の奴隷解放宣言の発令と形式的には同じだという理屈を付けて、アメリカによって拘禁された人たちに対する「残虐、非人道的若しくは品位を傷つける取扱い」の禁止を主たる内容とする「非拘束者取扱法」に従わないという方針を打ち出しました。元々は、イラクのバグダッドにあったアブ・グレイブ収容所で米軍が収容者を虐待した事件が発端となって虐待を禁止する目的で作られた法律ですが、それには従わないという意思表示です。

 

流石にこのように乱暴な解釈は批判されましたが、形の上ではリンカーンと似た手法です。リンカーンは良くて、ブッシュが批判される根拠として、人権の尊重が直ちに挙げられますし、法の遵守を柱とする「法の支配」という大原則に照らしても問題です。

 

ここで、オバマ演説の素晴らしさとの対比で浮き彫りになるのが、ウエスト教授の「変革のための4原則」なのです。次回はお待たせしたウエスト教授が登場します。

 

 

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