1999年 平和宣言
今日から本格的にこのブログを更新したいと思っています。最初は、1999年の平和宣言です。
特徴としては、初めて「です、ます」調の表現になったことや、被爆者への感謝の気持がしっかり表現されていることなどが挙げられますし、キーワードが「意志」であることも大切です。
でも今の時点でこの平和宣言が大切なのは、被爆体験を基にした被爆者の平和と和解の哲学が盛り込まれている点だと思います。皆さん御存知のように今日、戦争法が施行されました。いつか来た道を再度辿り、我が子や孫の名前の書かれた紙っぺらだけが入っている空っぽの白木の箱を受け取ることさえ、現実として考えざるを得なくなりました。
そのときに、「しまった。なぜこんなことに!」と言っても手遅れです。被爆者のメッセージから無限のエネルギーを汲んで、「今」立ち上がりましょう。
以下、平和宣言です。
平和宣言
戦争の世紀だった20世紀は、悪魔の武器、核兵器を生み、私たち人類はいまだにその呪縛(じゅばく)から逃れることができません。しかしながら広島・長崎への原爆投下後54年間、私たちは、原爆によって非業の死を遂げられた数十万の皆さんに、そしてすべての戦争の犠牲者に思いを馳(は)せながら、核兵器を廃絶するために闘ってきました。
この闘いの先頭を切ったのは多くの被爆者であり、また自らを被爆者の魂と重ね合わせて生きてきた人々でした。なかんずく、多くの被爆者が世界のために残した足跡を顧みるとき、私たちは感謝の気持ちを表さずにはいられません。
大きな足跡は三つあります。
一つ目は、原爆のもたらした地獄の惨苦や絶望を乗り越えて、人間であり続けた事実です。若い世代の皆さんには、高齢の被爆者の多くが、被爆時には皆さんと同じ年頃だったことを心に留めていただきたいのです。家族も学校も街も一瞬にして消え去り、死屍累々(ししるいるい)たる瓦礫(がれき)の中、生死の間(はざま)をさまよい、死を選んだとしてもだれにも非難できないような状況下にあって、それでも生を選び人間であり続けた意思と勇気を、共に胸に刻みたいと思います。
二つ目は、核兵器の使用を阻止したことです。紛争や戦争の度に、核兵器を使うべしという声が必ず起こります。コソボでもそうでした。しかし、自らの体験を世界に伝え、核兵器の使用が人類の破滅と同義であり、究極の悪であることを訴え続け、二度と過ちを繰り返さぬと誓った被爆者たちの意思の力によって、これまでの間、人類は三度目の愚行を犯さなかったのです。だからこそ私たちの、そして若い世代の皆さんの未来への可能性が残されたのです。
三つ目は、原爆死没者慰霊碑に刻まれ日本国憲法に凝縮された「新しい」世界の考え方を提示し実行してきたことです。復讐(ふくしゅう)や敵対という人類滅亡につながる道ではなく、国家としての日本の過ちのみならず、戦争の過ちを一身に背負って未来を見据え、人類全体の公正と信義に依拠する道を選んだのです。今年5月に開かれたハーグの平和会議で世界の平和を愛する人々が高らかに宣言したように、この考え方こそ21世紀、人類の進むべき道を指し示しています。その趣旨を憲法や法律の形で具現化したすべての国々そして人々に、私たちは心から拍手を送ります。
核兵器を廃絶するために何より大切なのは、被爆者の持ち続けた意思に倣って私たちも、「核兵器を廃絶する」強い意思を持つことです。全世界がこの意思を持てば、いや核保有国の指導者たちだけでもこの意思を持てば、明日にでも核兵器は廃絶できるからです。
強い意思は真実から生まれます。核兵器は人類滅亡を引き起こす絶対悪だという事実です。
意思さえあれば、必ず道は開けます。意思さえあれば、どの道を選んでも核兵器の廃絶に到達できます。逆に、どんなに広い道があっても、一歩を踏み出す意思がなければ、目的地には到達できないのです。特に、若い世代の皆さんにその意思を持ってもらいたいのです。
私たちは改めて日本国政府が、被爆者の果たしてきた役割を正当に評価し援護策を更に充実することを求めます。その上で、すべての施策に優先して核兵器廃絶のための強い意思を持つことを求めます。日本国政府は憲法の前文に則(のっと)って世界各国政府を説得し、世界的な核兵器廃絶への意思を形成しなくてはなりません。地球の未来のために、私たちが人間として果たさなくてはならない最も重要な責務が核兵器廃絶であることをここに宣言し、原爆犠牲者の御霊(みたま)に心から哀悼の誠を捧(ささ)げます。
1999年(平成11年)8月6日
広島市長 秋 葉 忠 利
« ヒロシマの心を世界に発信します (予告編) | トップページ | 2000年 平和宣言 »
「ニュース」カテゴリの記事
- 自動車運転の安全性を高めるために (2) ――2019年版「交通安全白書」―― (2019.06.22)
- 日本語「無支援」の外国籍の子どもたち ――一万人以上います―― (2019.05.08)
- 生前退位と憲法(2019.05.04)
- 朝見の儀と憲法(2019.05.03)
- 災害対策予算の大幅増額を! ――豪雨災害からの教訓 (6)――(2018.07.15)
「学問・資格」カテゴリの記事
- 7月22日に、「数学月間」の懇話会で話をします ――関東地方の皆さん是非お出で下さい―― (2019.07.16)
- 自動車運転の安全性を高めるために (1) ――客観的なデータで議論しましょう―― (2019.06.21)
- 認知機能検査の結果(2019.06.10)
- 認知機能検査(2019.06.06)
- 「アベノミクス」に騙されるな! ――経済も、原点に戻って考えよう――(2018.07.30)
「心と体」カテゴリの記事
- 日本のテレビは「いじめ」を助長している ――みんなで声を上げましょう―― (2019.07.19)
- 「いじめ」は世界的問題です (2) ――データで国際比較をしよう―― (2019.07.14)
- 草刈り機を壊すほどの力を持つサプリ(2019.06.27)
- 自動車運転の安全性を高めるために (3) ――交通事故総合分析センターの資料を元に―― (2019.06.23)
- 自動車運転の安全性を高めるために (1) ――客観的なデータで議論しましょう―― (2019.06.21)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 扇ひろ子さんのコンサート・二葉あき子さんの歌碑(2019.07.06)
- ラブリーシンガーズフレンド サマーフェスティバル’19(2019.06.18)
- 息子たちと観た「日本美術の名品」(2019.06.02)
- くじまの森 ――自由なマーケット―― (2019.05.12)
- 東西四大学合唱演奏会 ――第67回目の演奏会ですが、若者の心意気を感じました――(2018.06.26)
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 8月一杯お休みします ――大きな仕事を抱えています―― (2019.08.10)
- 風邪をひいてしまったので、しばらく休みます(2019.07.25)
- 好きな街並み ――プリンス通り―― (2019.07.22)
- インゲンとトウモロコシを収穫 ――サルと日照時間の影響―― (2019.07.21)
- 日本のテレビは「いじめ」を助長している ――みんなで声を上げましょう―― (2019.07.19)
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 「無責任」の論理構造 (2) ――総理大臣も、主権者たる私たちの「使用人」―― (2020.06.11)
- 『テニアン』の著者・吉永直登さんにお会いしました ――熱い思いを聞かせて頂きました―― (2019.07.15)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (3) ――何故「数学書」として読みたいと思ったのか―― (2019.07.12)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 (2) ――前口上も楽しさ一杯です―― (2019.07.11)
- 『数学書として憲法を読む――前広島市長の憲法・天皇論』 ――いよいよ発売です―― (2019.07.10)
コメント